2010年04月12日

続々・ツェルニーは何のため?

Category : 音楽的資料 

ツェルニーシリーズというわけではないんですが… 多分これで最後です。今回読んだのは、岡田暁生さんの「ピアニストになりたい! 19世紀 もうひとつの音楽史」。最近ツェルニーについて色々と考えてきたんですが、これを読むともう全然レベルが違う! なんだー、ツェルニーなんて可愛らしいものじゃないの!というのが第一印象。(笑)

ピアノの演奏において「指がよく回る」とか「間違えない」とかそういう価値基準は、19世紀になってから出てきたもの。18世紀に大切にされていたのは技術ではなくて、まず音楽そのもの。「音楽を正しく読む」ことが肝心だという考え方です。弾こうとする曲の性格やそこに含まれている感情を的確に読みとり、明快に演奏すること。
でもそんな18世紀的な考え方は、19世紀になると物量作戦に取って代わられてしまうことになるんですね。良家の子女のたしなみであった音楽が一般大衆にまで広がり、聴衆は玉石混交に。演奏家はそんな聴衆に手っ取り早くアピールするような「ブリリアントな演奏」をするようになります。演奏の技術的な面、特に指の訓練が重要視されるようになったのもこの頃から。「これさえやればあなたもピアノがラクラク弾ける!」とピアノ教育がマニュアル化され始め、練習曲ではまだまだ甘いとハノンのような指ドリルが登場。様々な指の強化器具が売り出され(これがまたものすごく沢山あって、イラストを見てるだけでも可笑しい)、ようやくピアノの専門科ができ始めていた音楽学校では血と汗と涙の軍隊式特訓が…!

18世紀的に「音楽を正しく読む」ための方法のところでは、ツェルニーの練習曲が引き合いに出されてました。なんとツェルニーは表現についての練習曲まで作っていたのですねーーー。演奏上での正しい抑揚の付け方やリタルダンドをかけるべき箇所、少しテンポを上げるべき箇所、絶対にテンポを揺らしてはいけない箇所、エトセトラ。私も楽譜を正しく読めるようになりたいんですがー。その教本、売ってませんかね? でもWikipediaのツェルニーのページにも、その「演奏について」という本については何も書かれていないので、日本では出版されてなさそう。うーん、これはやっぱりきちんと楽典を勉強をすべきってことなんでしょうね。何かいい本ないか、今度物色してみます…。
それにしても「これさえやればあなたもピアノがラクラク弾ける!」みたいな売り文句は、今でも十分有効ですよね。私だって踊らされそうになるもの。そんな風に19世紀の人々が踊らされていたとは面白いなあ。いや、でもそこに悲劇もいっぱいあったんだよね、きっと。
それと、ここ何回かツェルニーがどうのこうの言ってましたけど、結局のところはバランス感覚が一番大切なのかも、という結論に達しました。色々やってみて、自分に合うパターンを見つければいいんだよね。ということにしておこう。

そんなこんなを思いながら、読みかけだったシューマンの「音楽と音楽家」の残り少しを読み始めると! 「音楽の座右銘」なんていう章があって、色々書かれているではありませんか。例えばこんな感じ。

・一番大切なことは、耳(聴音)をつくること。小さいときから、調性や音がわかるよう努力すること。鐘、窓ガラス、郭公、--何でもよい、どんな音符に当たる音をだしているか、しらべてみること。
・いわゆる「無言鍵盤」というものができた。ちょっと試してみるといい。何にもならぬことが、よくわかる。唖からは話は習えない。
・音階やその他の運指法は、もちろん熱心に練習しなければならない。しかし、世の中にはそれで万事が解決すると思って、大きくなるまで、毎日何時間も、機械的な練習をしている人が多い。けれども、それはちょうどABCをできるだけ早くいえるようになろうと思って、毎日苦労しているようなものだ。時間をもっと有効に使わなければならない。
・やさしい曲を上手にきれいに、ひくよう努力すること。その方が、むずかしいものを平凡にひくよりましだ。
・ひく時には、誰がきいていようと気にしないこと。
・一日の音楽の勉強を終えてつかれを感じたら、もうそれ以上、無理にひかないように。悦びもいきいきした気持ちもなしにひくくらいなら、むしろ休んでる方がいい。
・ビスケットやお菓子のような甘いものでは、子供を健全な大人に育てられない。精神の糧も肉体の糧と同じく、素朴で力強くなければならない。大家といわれるような人は、このことに充分気を配っていた。こうした栄養をとること。
・いわゆる華麗なひき方が、達者にこなせるようになろうと心がけないように。ある曲をひく時には、作曲家の考えていた印象をよび起こすよう努めなければならない。それ以上をねらってはいけない。作家の意図を超えたものは、漫画と同じだ。
・いわゆる大演奏家はよくやんやと喝采されるが、あれをみて、思いちがいをしないように。みんなが、大衆の喝采より、芸術家の喝采を重んじるようだといいと思う。
・人の集ったところで、何度もひくことは、益よりも害が多い。人にみられるのはかまわないが、自分の内心に省みて、はずかしいような曲は、決してひかぬように。
・しかし、他のひととあわせて二重奏や三重奏等をする機会があったら、決してのがさないように。人とあわせると、演奏が流暢に、達者になる。歌を歌う人の伴奏も、いつもするように。
・よい大家、ことにヨハン・ゼバスチャン・バッハのフーガを熱心にひくように。《平均律クラヴィーア曲集》を毎日のパンとするように。そうすれば、今にきっとりっぱな音楽家になる。
・音楽の勉強につかれたら、せっせと詩人の本をよんで休むように。野外へも、たびたび行くこと!
・教会の側を通りすぎるとき、なかでオルゲル(オルガン?)が鳴っていたらはいってきくように。もし幸にもオルゲルの椅子に坐れたら、小さな指でひいてごらん。そうして、この音楽の万能に感心するといいと思う。
・オルゲルをひく機会があったら逃さないように。タッチと演奏法に、粗雑な曖昧な点があると、覿面に報いが現れる。この点で、オルゲルほど良い楽器はない。
・よい歌劇をきく機会をのがさないように。
・小さいときから、指揮法を知っておくように。上手な指揮も、何度も見ること。一人でそっと指揮の真似をしてみたってかまわない。そうすると頭がはっきりする。
・ほかの芸術や科学をみると共に、自分のまわりの生活をしっかり観察せよ。
・勤勉と根気があれば、きっと上達する。
・芸術では熱中というものがなかったら、何一ついいものが生まれたためしがない。

10ページほどに渡るので、これはほんの抜粋ですが、元々はシューマン作曲の「ユーゲントアルバム(子供のための小曲集)」のために書かれたもののようです。岡田暁生さんの本と色々重なるところがあって面白かったー。というか、そちらを読んでいたからこそ理解できる部分もありました。「無言鍵盤」も岡田暁生さんの本に出てきたし! これだけ読んでいても「なるほどね」と思ったと思うんですが、19世紀の音楽事情を知ってみると、シューマンが非常に良心的(そして当たり前)なことを言っているのが分かります。音楽だけを特別扱いして、音楽にだけ没頭するののではなく、他の様々なことにも興味を向けるように言ってるのがまたいい感じ。シューマンの人となりが分かるなあ。
あ、この本のメインはシューマンによる音楽評論で、そちらも面白かったです。ベートーヴェン、ショパン、ベルリオーズ、シューベルト、ブラームスなどについて論じています。小難しそうなイメージを持ってたんですけど、これが全然。とっても分かりやすくて。ショパンについての「諸君、帽子をとりたまえ、天才だ」という言葉もこの本の冒頭にあります。

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Comments (4)

  1. yoshimi

    こんにちは。

    シューマンのこの本は初めて知りましたが、全くごもっとも…と思うことばかりですね。でも、これをきちんと実践するとなると、結構大変でしょうね~。当たり前のことが、一番難しかったりします。

    オルゲルはパイプ・オルガンのことですね。
    そういえば、パイプ・オルガンのように足鍵盤のついたペダルピアノという楽器があって、シューマンはこの楽器用が好きだったらしく、練習曲(カノン様式の6つの小品Op.56)を書いてます。
    音の響きがオルガンのように重なり合ったとても綺麗な曲で、シューマンにしては様式がかっちりとして安定感があります。
    録音が少なく、ピアノで弾いた録音にはあまり良いものがないのが難点。(私はアンデルジェフスキのライブ放送で聴いて、ようやくこの曲の美しさがわかりました)

  2. アリア

    yoshimiさん、こんにちは~。
    シューマンのこの「音楽の座右銘」は、本当にごもっともですよね。
    まずピアノの演奏のことはまずもちろんなんですけど
    ピアノだけでなく音楽全体に、そして音楽だけでなくそれ以外のことにも
    目を向けるようにと書かれているのが、すごくいいなあと思ってます。
    当たり前のことでも、いざ実行するのはなかなか難しかったりしますが。
    あとね、「ひく時には、誰がきいていようと気にしないこと」とか可笑しくて。
    これは気にするなと言われても無理。どうしても気にしてしまいますーーー。(笑)

    そっかあ、オルゲルはパイプ・オルガンのことでしたか。なるほど。
    そしてペダルピアノの練習曲というのもあるんですね。全然知りませんでした。
    音の響きがオルガンのように重なり合ってるなんて、本当に綺麗そう。
    聴いてみたい!
    でも確かにCD録音というのは少なそうですね。
    今度シューマン生誕200年のボックスが出るようなので見てみたんですが
    そちらにも入ってないみたいだし…
    http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=3811217
    でも検索してみたらいくつかヒットしたし、音源はありそうですね。
    あとでぜひ聴いてみます!
    アンデルジェフスキの演奏がYou Tubeかどこかにあればいいなあ。

  3. yoshimi

    こんにちは。公開ストレージに、アンデルジェフスキのライブ録音のファイルを置いておきました。
    ファイルサイズが18MBありますので、再生が始まるまでちょっと時間がかかるかもしれません。

    http://cid-03d546a1aa39b52c.skydrive.live.com/self.aspx/MUSIC/3^_Anderszewski%20Schuman%20Canon.m4a

    「ダウンロード」をクリックして、「プログラムで開く」の中にある「Quick time player」を選択し、再生ボタンを押すと、そのまま再生されます。
    ファイルをダウンロードして聴く場合も、Quick time playerが一番簡単です。(ituneだと拡張子を変更して、ライブラリに登録する手間がかかります)

    リアルプレーヤーで録音したファイルに制限がかかっている可能性があるので、itune用ファイルに変換しておきましたが、私のパソコン以外ではうまく再生できない可能性があります。
    Quick time playerで再生できなければ、おそらく他のプレーヤーでも再生できないと思います。

    上手く再生できても、ウェブラジオの中継なので、音がブツブツ切れたりしていますが、音質自体はそれほど悪くないので、曲の雰囲気は味わえます。

    お暇なときにでもお試しくださいね。(上手くいかなかったら、すみません)

  4. アリア

    yoshimiさん、ありがとうございます!
    アンデルジェフスキの演奏、無事に聴くことができましたー!!
    ありがとうございます。嬉しいです。

    これは素敵ですね。音がとても綺麗。
    アンデルジェフスキの録音は今までバッハしかちゃんと聴いてなくて
    シューマンは「ウイーンの謝肉祭の道化」を試聴したぐらいだったんですが
    そちらとはまた少し違っていてなんだかびっくりです。
    いえ、もちろん曲が違うわけだからタッチも違ってくるんでしょうけど
    こちらの録音は、まるで夢のような… 上品に軽やかに流れていきますね。
    うーん、「軽やか」というとまたちょっと違うニュアンスになってしまいそうですが
    なんというか、シフォンの布を何枚も重ねたような感じというか…
    今まで試聴したものとは全然違うー!
    yoshimiさんがこの演奏を聴かれてようやくこの曲の美しさが分かった
    と仰ったのも頷けます。
    ほんと、美しい曲ですねえ。なるほど~。

    まだ全部は聴けてないんですが、これはじっくり聴きたいです。
    本当にありがとうございます!

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