2010年08月17日
ピアノ黄金時代
Category : 音楽的資料
ちょっと前に入手していた「アート・オブ・ピアノ」というDVD、ようやく観られました。
これは「20世紀の偉大なピアニストたち」という副題で、総勢18名のピアニストを、実際に演奏している映像や本人へのインタビュー、音楽関係者たちのコメント、20世紀のピアノ音楽を俯瞰するナレーションによって紹介していくというもの。その18名とは、パデレフスキ、ホフマン、ラフマニノフ、モイセイヴィチ、ホロヴィッツ、シフラ、ヘス、ルービンシュタイン、プランテ、コルトー、バックハウス、E・フィッシャー、ギレリス、リヒテル、ミケランジェリ、グールド、アラウ、A・フィッシャー。
なんでケンプが入ってないのー!という文句はあるんですが(笑)、すんごい貴重な映像がてんこ盛り。(ラフマニノフだけは写真と音源のみですが) 特にパデレフスキの映像が残っていたのには驚きましたよー。…と思ったら、これは「月光ソナタ」というハリウッド映画の一場面だったんですね。このDVDに収められているのは、リストの「ハンガリー狂詩曲第2番」を弾いて社交界の紳士淑女を脳殺するパデレフスキ。パデレフスキ神話というのは、私には今一つ分からないんですが… 他のピアニストたちは手の動きからしてすごく綺麗だなと思うんですけど、パデレフスキの演奏はあまり美しいとは思えないですしね。ハンガリー狂詩曲の2番は、実は私も高校生の頃にやったことがあるんですが(玉砕しました)、最初の部分を手をグーの形にして弾くっていうのはどうなんだろう?(しかも「波打つ赤毛のハンサム」と言われても)
モイセイヴィチとラフマニノフのエピソードも印象に残るものだし、ホロヴィッツのオクターブ奏法もすごかったし(それ以外の手の動きも本当に美しくて、ヴァーシャリが競走馬の筋肉の動きに擬えるのも納得)、すっかり年老いてしまったコルトーが限りなく澄んだまなざしで語りつつ弾くシューマンの「詩人のお話」は、本当に印象的。また一段深く曲を理解できるような気がします。あとギレリスが第二次世界大戦中のロシアの前線で弾くラフマニノフの前奏曲第五番も、また全然違う意味で強烈。野外にどーんと置かれたグランドピアノを取り囲むのは兵士たち。戦闘機に乗ったまま聴いてる兵士もいるし、演奏中に飛来した戦闘機をギレリスが見上げる場面も。この時、音楽は彼らに「なぜ戦うのか」思い出させるために存在してるんですよー!
グレン・グールドの弾くバッハのクラヴィーア協奏曲第一番のバックには、バーンスタイン指揮のニューヨーク・フィルハーモニックだし… アラウのインタビューも良かった。「体はつねにリラックスさせます。肉体は魂の奥深くとつながっています。とても大事なことです。関節がこわばっているとその流れが妨げられます。感情や体の流れは音楽が命じるものです。体がこわばっていたら鍵盤にまで伝わりません。」と語るアラウ。要するに脱力のことでもあるんだけど… それだけではないですよね。
でも演奏を観ていて一番強烈だったのは、ジョルジュ・シフラの弾くリストの「半音階的大ギャロップ」。もう、すっごいですねえ! 手の動きが捉えきれないぐらい速くてびっくり。(残像が…!) シフラがリストの再来と言われていたというのもよく分かります。リストもこんな演奏をして観客を熱狂させたんでしょうね。DVDを観てるだけの私ですら、もうドキドキしちゃいましたもん。そういえば、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」はドライブ中の事故を招きやすい危険な曲だと聞いたことがありますが(60BPMを超えるテンポの楽曲を聴くと心拍数と血圧が上がるせいらしい)、シフラの「半音階的大ギャロップ」もそれに通じるものがあるかも、なんて思ってみたり。
そしてそれら18名のピアニストたちについてコメントするのは、現役のピアニストや指揮者、興行主やレコードプロデューサーたち。ピアニストとしては、アンデルジェフスキ、バレンボイム、グラフマン、キーシン、コチシュ、コヴァセヴィチ、シャーンドル、ヴァーシャリ。コメントで演奏が中断されることになるのですが、こちらもとても楽しめました。色々と印象に残るコメントがありましたしね。たとえばアンデルジェフスキの語る、ホフマンとピアノの「まれにみる幸福な関係」とか…(ピアノと格闘してるイメージなのはリヒテル!←全く個人的なイメージです)「ホフマンにとってたやすく弾けたことが悲劇です」「しがみつくものがなくて自滅したのです」「才能がありすぎると危険です」という言葉。そしてシフラの演奏に関連して、失敗の可能性を減らすために日々練習しているけれど、安全な演奏なんて退屈だし、危険に惹かれると語るアンデルジェフスキ。ううむ…。(まあ、一般のピアノ練習者とは全く次元が違う言葉なんですが)
今活躍してるピアニストたちの演奏にも素晴らしいものが沢山あるのだけど、やっぱりこの時代のピアニストたちって特別の存在かも。本当に輝いていたと思いますね。そしてこのDVD、演奏してる手が映っている映像が多いのもGoodです。彼らの手の形や弾き方をじっくり観れば、得られるものが多そう。
今までDVDといえば映画ぐらいしか観たことなかったんですけど、こういうのもいいものですねえ。色々観てみたくなっちゃいました。(You Tubeでもある程度観られると思いますが)
も~アリアさ~ん
わたしも買おうと思ってかごに入ってますよ^^
(アートオブバイオリンは、WISHリストだけど)
やっぱり永久保存版でしょうか?
YouTubeでも見れるかもしれませんが
色々いっぺんに見たい時とかって面倒ですよね
その点DVDだと、検索しなくてもみれるし
インタビューもあるなんて~
ネットでのお買い物が少ないときにポチる予定です♪
アリアさん、こんばんは。
初めて書き込みさせて頂きます。
ご挨拶が大変に遅くなりまして申し訳ありませんでした。
このDVD、まだDVD化される前のビデオテープだった頃から持っていまして
愛聴盤です。
DVDでも持っています。
ここまで詳しくレビューしてくださると、きっと皆さん、
「買い!」だと思います♪
私も思い出して久しぶりに興奮しちゃいました。
また観よう〜♪
>のんさん
わあ、のんさんも買おうと思ってらしたのですね。
そうそう、これは永久保存版ですよ~。
のんさんのお好きなグールドやルービンシュタインも沢山出てきますしね。
グールドは演奏はもちろんですが、インタビューもすごく良かったですよ!
作曲家と演奏家と観客の関係を考えさせられます。
(というか、ますます作曲の技法の勉強がしたくなりました)
ルービンシュタインは、とってもチャーミングに映ってますし~♪
(自らファンにもみくちゃにされてるとこが好きです)
You Tubeはすごく便利なんですけど、便利すぎてありがたみを忘れがちな私…
やっぱりこういうのは、お金を出してでもきちんと手元に欲しいです。
って、あんまり高価なものだったら買えないんですが!(笑)
のんさんも、ぜひぜひポチって下さいね。
感想を楽しみにしてます~。
>ペンネさん
わあ、来て下さってありがとうございます。
いえいえ、ずっとお忙しく飛び回っていらしたのに
こんな辺境にまで来て下さって、こちらの方が申し訳ないぐらいです。
ありがとうございます♪
もうおうちに戻られたんですね。少しは落ち着かれたでしょうか。
実は、私の祖母もつい数ヶ月前に大往生したところなのです。
年齢もほぼ同じ、家で転んで大腿骨が、という辺りも全く一緒だったのでびっくり。
他人事とは思えません…
大往生といってもやはり別れは淋しいですし、どうぞお力落としのないように…
なんて、こんなところに書いててすみませんっ。
ペンネさんもこのDVDを持ってらしたのですね。しかもビデオの時からの愛聴盤とは!
いや、本当にこれはすごいDVDですね。
よくぞここまで集めてくれました~って思いました。
唯一不満なのは、私の好きなヴィルヘルム・ケンプが入ってないことなんですが…(笑)
そもそも18人に絞るというのがものすごく大変な作業だったでしょうね。
あ、あともう1つ不満があるんですが、
それはもし同じ趣向の21世紀版ができても、生きてるうちに観られないこと!
なあんて、このDVDだけでも相当興奮しながら観たのに
早くも続きが観たくなってしまって… 全く贅沢な話ですね。(^^ゞ
(21世紀版は、それこそ人数を絞るのが大変そうですー)
シフラ、生で聞いたことありますよ。
多分ww
アリアさんの文読んで、思い出しましたよ。
ショパン中心のプログラムだったかな。
音がホールを超えて響いて、押し寄せる感じで、圧倒されました。
コンサート終わってから興奮して、
ぴょんぴょんしながら帰ったなぁと…。
あ、年齢がばれますねww
>檀さん
えええーっ、なんとシフラを生で聴かれているとは…
>音がホールを超えて響いて、押し寄せる感じで、圧倒されました。
そんな感じになるの、すごく想像できます。
だってDVDからも、音がわーっと押し寄せてきましたもん!
あ、シフラのところでヴァーシャリがコメントしてるんですけど
彼はシフラが生活費稼ぎのためにバーで弾いてた時代を知ってるそうなんですね。
最初聴いた時、バーにピアニストが2人いて連弾してると思い込んだんですって。
1人なのに連弾って! 一体どんな弾き方してたんでしょう。(笑)
そこまで分厚い音になってたってことですよねえ。凄いなあ。
ぴょんぴょんしながら帰ったというのが可愛い♪
そんな小さい頃から素晴らしい体験をされていて、羨ましいです。^^
アリアさん、こんにちは。
このDVDは全編Youtubeに登録されてますね。(私はこっちで観ました)
ただし字幕がないので、言っていることを正確に知りたいなら、ドキュメンタリーものの場合は、字幕や日本語吹き替えのあるDVDで観た方が良いですね。音も映像もDVDの方が綺麗ですし。
DVDに出ているピアニストは、一見して、おお~!という映像があるピアニスト(とヴィルオソーソ系)が少し多いかなという感じなので、ハスキル、シュナーベル、リパッティ、それにケンプなどが入っていないのが残念。
現存する資料の内容や多さも関係しているのかも。
アラウが言っているのは、文字通りで、体を緊張させずに弛緩させることです。
子供時代の師クラウゼが、関節を硬くしてはいけない、体の力を抜くようにと、よく言っていたそうです。
ただし、若い頃に自分でいろいろ奏法を研究した結果、体の緊張状態を避けるために、体から力を抜いて体の重みを自然に使う重量奏法(ブライトハウプトの理論が有名です)を採っているところが、他のピアニストとは違うところです。
アラウは、手が疲れる、こわばる、つる、というのは経験したことがなくて、”疲れる”とはどんな状態かがわからないと言ってますから、かなり効果のある奏法のようです。(もともとアラウは、11度届くほど手が大きく、関節がかなり柔軟ですが)
この奏法は、中途半端に使えるものないので、全面的に使うか、全く使わないか、のどちらかだとバレンボイムは言ってました。
DVDで見る(聴く)のも、CDとは違う楽しみがあって良いですね。好きなピアニスト中心にDVDはいろいろ集めました。
ピアニストものなら、モンサンジョン監督のドキュメンタリーやリサイタルのものが定評がありますし、面白いです。
グールド(このDVDは見てませんが)、リヒテル、アンデルジェフスキ、ソロコフと監督の選択眼はなかなか鋭い。
EMIからは、古いモノクロのリサイタル映像のDVDが多く出てます。(ケンプのDVDもあります)
新しい映像なら、Medici Arts が充実してます。
Youtubeでも見れるものはありますが、著作権問題からか、最近は新しいDVDの映像はかなり削除されてます。
このDVDのように古い映像ものは、それほど厳しくなくて、残っているものが多いです。
>yoshimiさん
わあ、You Tube には全編登録されてるんですか!
ある程度は見られるだろうとは思っていたんですが、全部とはー。
でもそうなんです、DVDの方が音も映像も堪能できますしね。
検索しなくてもいいし、削除される心配もないし。(笑)
それに、日本語の字幕があるというのはやっぱり助かります。
DVDに付いてたリーフレットもすごく親切な作りなんですよ。
その分輸入品と比べると値段設定がどうしても高めになっちゃいますが…。
そうですね、確かに現存してる資料の数なんかも影響してそうです。
ラフマニノフクラスになると、映像がなくても外せないわけですが
それ以外のピアニストとなると、やっぱり映像がないと難しいかな。
ハスキル、シュナーベル、リパッティの誰が入っていてもおかしくないのに
結局入ってないというのは、やっぱりそういう関係かもしれないですね。
コメントの中で、ハスキルの話はちらっと出てましたけどね。
You Tubeで探してみても、ハスキルで見つかったのは音声ばかりでした。
(もっとちゃんと探せばあるのかもしれませんが)
ああ、アラウの言葉は文字通りの意味でしたか。
そういえばその教えの話はどこかで読んだような気もします…
でも、「手が疲れる」「こわばる」「つる」を経験したことがないなんて!!
実に羨ましい話ですね。
私も手がつったことはないですが、ちょっと速いややこしいフレーズになると
どんどん手が疲れるし、こわばっちゃいます。
今でもそんなのだったら、これから先はもっともっと大変ですよね。
今のうちに脱力を体得したいんですが…
簡単に「脱力」とは言っても、会得するのはなかなか難しいですー。
DVDのことも、色々教えて下さってありがとうございます♪
早速ピアニスト関連のDVDを色々探してみましたよ。
モンサンジョン監督って、David FrayのDVDも撮った人だったんですねー。
アンデルジェフスキのコンチェルトの場面をYou Tubeで少し観てみたら
映像の構図がよく似てました。(笑)
もちろん、ピアニストも曲も違うので、その場の雰囲気はまた全然違いますが。
リヒテルのもYou Tubeで少し見てきました。
とてもいいDVDを作る方のようですね。これは要チェック!!
アンデルジェフスキのあの羽のように軽いタッチの映像は、ぜひ欲しいですー。
以前教えて頂いたフランス組曲で、すっかり魅せられちゃいましたし。
でも日本語版はあまりないし、あったとしても値段は高い…
最低限、英語の字幕があればなんとかなるかな、という気もしてきます。(笑)
あ、ケンプのEMIのDVDも見つけました。しかも私の好きなシューマン!
これもぜひぜひ欲しいですー。