2010年09月07日

「ポポイ」

Category : 音楽的資料 

amazon:ポポイ

そういえばこの作品の中でドビュッシーが流れていたなあ… と、倉橋由美子さんの「ポポイ」を久々に手に取りました。これは倉橋由美子さんの桂子さんシリーズのうちの1冊。近未来(?)が舞台で、桂子さんの血の繋がらない孫の舞が主人公。舞の祖父のところに乱入したテロリストの美少年が切腹し、介錯された首だけが密かに最新医療で生かされ続けて、舞の元に持ち込まれるという話です。元々はNHK-FMのラジオドラマのために書かれたという作品。

美少年の生首に「ポポイ」という名前をつけて世話する舞。…切腹といえば三島由紀夫だし、この作品の中でも引き合いに出されてるんですけど、イメージ的には、やっぱり「サロメ」でしょうね。(その「サロメ」も引き合いに出されてますが) 特に舞がその首を弄んでいるところ。気まぐれにキスしたり、わざとポポイの目なんてまるで気にしてないようなそぶりで、目の前で服を脱いでみたりするところ。(そのエロティシズムは決して大人の女性のものではなく、少女の硬さを感じさせるものなんだけど) もちろん普通の世話もしてます。でも、どちらかといえば遊び感覚かな。髪形を変えてみたり、髭をそったり、歯磨きをしたり。なんと男性用パックまで! あとは、話しかけたり、本を読んだり、音楽を流したり… 聴かせる音楽はバッハから現代のジャズやフュージョンまで幅広いんですが、ポポイが気に入るのがドビュッシーの音楽。

ポポイは夜寝る前にドビュッシーのピアノ曲を聴く。いろいろ聴かせた中ではドビュッシーを一番好むようだから、若いフランス人のピアニストが弾いている「前奏曲集」や「ベルガマスク組曲」や「子供の領分」などから、肌ざわりの柔らかな音の織物のようなのを選んで夜の空間に広げてやる。するとポポイはその音の織物にくるまって気持ちよく眠れるようだ。

あれっ、「子供の領分」も出てきてましたっけ! すっかり忘れてました。へええ「肌ざわりの柔らかな音の織物」かあ… そんなところからも、演奏のヒントを少し掴めるような気がします。あと、若いフランス人のピアニストって誰のイメージだったのかな。倉橋由美子さんがこの作品を書いた頃だと… パスカル・ロジェとかミシェル・ベロフ辺りなのかな? 同世代だと、ジャン=フィリップ・コラールというピアニストもいるようですね。残念ながら私は聴いたことがないのですが。

音楽は少しずつ小さくなりながら朝まで続くようにしてある。すると明け方に時ならぬ花火の夢を見たりすることがある。そんな時は色とりどりの音の火花が部屋の中にはじけていたことにあとで気付く。「前奏曲集第二巻」の「花火」を聴いていたのだ。また、少し粘液質の夢から朝の光の中に浮かび上がってみると、外は温かいシャワーのような雨だったりして、たちまち夢の名残が洗い流されることもある。嬉しさの余り伸びをしたら、偶然、部屋を満たしていたのが「古代のエピグラフ」の中の「朝の雨に感謝するためのエピグラフ」だったことに気がついた。

そして早速「花火」と「朝の雨に感謝するためのエピグラフ」を聴いてみる私ってば。(笑)
「花火」は大胆で華やかで、確かに色とりどりの火花が飛びかいそうな曲。これは前奏曲第二巻を締めくくるための花火、にはとどまらないかしら。最後の方でフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が聞こえてくるそうなので。(ここなんだろうなってところはあるんですが、今の時点ではイマイチ分かってません…)
「朝の雨に感謝するためのエピグラフ」は、ドビュッシーが友人である詩人・ピエール・ルイスが、古代ギリシャを舞台に同性愛を歌った「ビリティスの歌」を発表する際の付随音楽として作曲された曲。元々はフルートとチェレスタとハープのための曲だったんですって。でもその企画は結局実現しないまま、ピアノ連弾版として書き直されて、今の形になったのだそう。幻想的な美しい曲。いずれにせよ、どちらの曲も相当難しそうです。

この本に限らず、倉橋由美子さんの作品には文学や美術、音楽、その他様々な芸術がよく顔をのぞかせて、倉橋さんご本人の芸術に対する造詣の深さを感じさせるんですけど、他に特に印象に残っているのは、同じく桂子さんシリーズの「城の中の城」のこのクダリ。

「クーラウ、クレメンティ、ハイドン、スカルラッティのソナタが合わせて八曲位、それにモーツァルトのソナタが二つ弾けます。あとはバッハのアンナ・マグダレーナと、インヴェンションが三曲ぐらい、平均律は第一巻のプレリュードの一番と二番がやっとで、フーガの方はまだ駄目なの」

これを言ってるのは桂子さんの娘の智子さんです。どのぐらい弾けるのかと聞かれた答がコレ。まだ6歳だというのに凄すぎる!(しかも自宅に中古ながらもスタインウェイがあるなんて、なんて羨ましい環境なんだ!) でもこの作品が書かれた頃は、女の子ならほとんどみんな!ピアノを習ってるって時代だったから、こんな子もいたのかもしれませんねえ。(しかもあの桂子さんの子供なんだものね)

Comments (2)

  1. yoshimi

    アリアさん、こんにちは。

    倉橋さん、相変わらずグロテスクな物語を書いてますね。
    かなり昔、童話集を読みました。文章に視覚喚起力があるせいか、シーンのイメージが具体的に浮かんできて、気分が悪くなった覚えがあります。
    歴史小説で生首の話が出てきても平気なんですが、この生首を描写している部分を読むと、想像しただけで気持ち悪くて、夢に出てきそう…。

    「花火」はピアニスティックな面白い曲なので、わりと好きです。たしかに最後の数小節にフランス国歌が出てきますね。
    左手トレモロの上で鳴っている右手高音部(3段楽譜の一番上段の旋律)が、ラ・マルセイエーズ終盤の旋律の一部を弾いてます。
    別の旋律が邪魔するので音だけだとちょっとわかりにくいですが、楽譜をみればすぐにわかります。

    アラウのドビュッシー作品集を最近買ったので、久しぶりにドビュッシーを集中して聴きましたが、やっぱりとても不可思議な音楽です。
    勉強のためにジャンケレヴィッチの『ドビュッシー 生と死の音楽』を読んでますが、「花火」についてもいろいろ書かれてます。

    ”虚しい一日の、いわば24番目のひとときであり、降るような星と大きな打ち上げ花火のもとで終結する。虚しい一日は、真夜中のきわめて虚しい虚飾に満ちた束の間の大詰めによって終わりを告げる”
    ”最後の打ち上げ花火が落下して7月の暑い夜空へ消えていき、はるか彼方でマルセイェーズ”が息途絶える…。虚無の虚しさ!世の栄光はこうして過ぎ去っていく。”

    作品の構造というよりも概念的な分析が中心で、かなり独特な解釈だと思いますが、これが面白くて、曲の意味をつかむのにちょうど良い本でした。
    直観的・詩的な文章がわりと多いので、文体や発想が好みに合えばとても刺激的、合わなれば詩か散文のようでつかみどころがないという感じがする本ですね。

  2. アリア

    yoshimiさん、こんにちは。
    倉橋由美子さんの作品は、本当に視覚喚起力がありますね。
    でも、グロテスクだし悪趣味なはずの情景なのに、とても美しく感じられて…
    それがこの方の作品の一番の魅力なんだろうなあと思います。
    でもこの生首の描写で既にダメだったら、あまり読まない方がいいかも。
    こんな夢を見てしまうのは困りますもん。(絶対にとんでもない悪夢のはず)

    「花火」のフランス国歌は、グリッサンドの打ち上げ花火が盛大に炸裂した後ですよね?
    というのは分かるんですけど、肝心のメロディが分からなくて…
    そうか、楽譜を見れば簡単に分かるんですね。
    あ、でも、ラ・マルセイエーズ終盤の旋律を知らないという可能性もあるのでした。
    多分分かるとは思うのですが、改めてきちんと聴いたことがないので…
    (映画の「カサブランカ」で歌ってるのを見たりとか、その程度なんです)

    「ドビュッシー 生と死の音楽」も面白そうですね。
    青柳いづみこさんのドビュッシー関連の文章は一通り読んだと思うのですが
    読んでいると、かなり青柳さん独自の視点という感じがしてくるので
    他の人の意見も聞いてみたくなってくるんですよね。
    ジャンケレヴィッチの視点もかなり独特のもののようですが、面白そう。
    他の曲に関する文章も読んでみたくなっちゃいました。
    ドビュッシーの曲って、題名は素敵なんですけど
    どこがどうなってその題名になるんだろう?と考え始めると
    結構ぐるぐると迷路に迷い込んでしまいそうになりますしね。
    概念的な分析も大歓迎です。これでもっとイメージが掴めるかも!
    文体や発想が好みに合うかどうか、まずは手に取ってみようと思います♪

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