2011年11月07日

「音楽の正体」その4

Category : 楽典覚え書 

第7章「モンキーズの見た白昼夢 デイドリーム・ビリーバー -ドッペルドミナントの魔法-」

1960年代、ビートルズ旋風が吹き荒れていた頃、アメリカの音楽界が何とか巻き返しを図ろうと人工的に作り出したのがモンキーズ。ごく普通の若者だった彼らをスターに仕立て上げるために、連続ドラマまで作られたんですね! そのモンキーズの「デイドリーム・ビリーバー」には、「聴くものを白昼夢に誘い込む音楽的な魔法が仕組まれている」のだそうです。
それはドッペル・ドミナントのこと。ドッペルゲンガーなんて言葉も時々耳にしますが、ドッペルというのはドイツ語で、英語におけるダブルのこと。ドミナントがダブル。

これまでにも出てきた通り、ハ長調では「ソシレ(G)」にあたるドミナントが曲の中でとても重要なわけですが、そのドミナントをもっと強調するにはどうすればいいのか? といえば、一時的にドミナントの調に転調すればいいのですね。ソシレが主和音となる調といえばト長調。ハ長調からト長調に転調する。そしてト長調に転調したことを明確にするためには、ト長調のドミナントを出せばいいというわけ。(ト長調のドミナントはレファ♯ラ、つまり D )
つまり「D→G→C」という流れがあった時。これを理論的に読み解いてみると、ト長調に転調した曲を V → I で一旦解決、そしてこのト長調における I は同時にハ長調における V でもあるので、さらにIである C の和音へといって終止、というわけ。

このドッペルドミナントは、筆者いわく「誰も知らない渋谷の雑踏の中で、親友の親友に偶然知り合ったかのように」(笑)ほっとあったかい気持ちにさせてくれるものだそう。だからその直前に寂しさを演出しておいた方が、救われた気持ちが増して効果的なんだそうな。
そしてモンキーズの「デイドリーム・ビリーバー」には、しっかりマイナーコードが配置されて、寂しさも演出されていんですって。このドッペルドミナントが使われている他の例としては、映画「チキチキ・バンバン」の主題曲。これもドッペルドミナントの直前に、しっかりマイナーコードが配置されていました。いずれにしても長く続くわけではなく、せいぜい1小節といったところ。たった1小節のマイナーコードって、実際に聴いていて寂しさを意識するほどの長さじゃないと思うんです。むしろあっという間。でもそれが逆に隠し味的な効果を発揮しているのでしょうね。

第8章「赤いスイートピーはどこへ行ったのか -副5度によるシーン展開-」

映画にも音楽にも意外な展開は必要。そうでなければドラマにはならないし、クライマックスの盛り上がりにも欠けますね。そんな時に便利なのが副5度。
この副5度、ドッペルドミナントとそれほど変わらないのです。ドッペルドミナントは V 度和音を主和音とする調に転調(ハ長調の時のト長調)という話だったのですが、ト長調以外に転調した時のドミナントが「副5度」なんです。本来 V 度だけでなく II 度・ III 度・ IV 度・ VI 度の和音を主和音とみなす調に転調することができますしね。こまめな転調とこまめな演出に欠かせないのが、この副5度という和音。

そして松田聖子「赤いスイートピー」。
筆者は「臨時転調の妙をこれほど駆使し、しかもさりげなさのオブラートで包んだ名品も珍しい」と絶賛。

まず冒頭の「春色の汽車」から「シャツにそっと」までのくだり、わざとよくある和音つなぎになっている。何事も起きず平穏なままの情景描写。 I 度(C)の次に II 度(Dm)、 III 度(Em)ときて VI (Am)、いかにものどかではないか。田園のなだらかさそのままの音の流れである。ところが「シャツにそっと寄りそう」という主人公の清純な少女としてはちょっと相手をドキッとさせる積極的な恋のモーション(色仕掛けと言ってもいいかもしれない)が始まると、ちゃんと和音も意外さを出して、 IV 度の副5度(C7)がジャーンと鳴る。 IV 度調(F調)という I 度からみて明るく華やかな調で新たなシーン展開が始まるのだ。
そこで2人の恋の半年が語られ、「あなたって手も握らない」という女のコにとっての切なく初々しく、しかしほのかな欲情も感じさせる歌詞になると、そこは悲しみを表現しやすいマイナー調である VI 度調(Am調)への転調に当てている。
この構成は見事というほかはない。
女のコのちっちゃな悲しみをわずか1小節の短調部分に凝縮する、そのインパクトは聴く者をドキッとさせずにはおかないのだ。そしてサビの部分、一転して短調から開放されてI度調つまり元の調に戻り今度は愛情をストレートに歌い上げる。

という「赤いスイートピー」もユーミンの曲です。

この曲では、 IV 度調(F調)と VI 度調(Am調)に臨時に転調しているわけですが、この2つはまた対照的な調のようです。 IV 度調は明るく派手で華やいだ感じ。つまりサブドミナント的な調。そして VI 度調は原調とは平行調にあたるマイナー調で、こちらは悲しさを演出するのにぴったりなのだそう。
副5度を効果的に使った例としては、平松愛理「部屋とYシャツと私」、中島みゆき「時代」、「サウンド・オブ・ミュージック」の「ドレミの歌」、中山美穂「幸せになるために」、Ronets「Be My Baby」など。

この記事を書いてて思ったんですけど、クラシックの楽曲分析をしようと思ったら、まずはコード名を書き込んでみるというのもいいかもしれないですね。いきなり I 度とか IV 度とか書き込むよりも、そっちの方が確実な感じ。たとえ気がつかないうちに転調してても、後から対応できるでしょうし。 I 度とか IV 度とかって相対的なものだし、要するに「移動ド」みたいなものなんでしょうか。コード名を書き込むのは「固定ド」で。(と書きつつ、私の「移動ド」「固定ド」の観念も合ってるのかどうか不明なんですが)

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