2011年11月08日

「音楽の正体」その5

Category : 楽典覚え書 

第9章「津軽海峡イオン景色 -音楽の「泣き」とは何か-」

万人が泣ける曲の秘密とは何か。メロディがいいとか、歌詞が切ないとか、バックのギターがかっこいいとか、そういった要素も色々とあるのですが、そこにはやはりおきまりのテクニックというものがあるのですね。

それは倚音(いおん)。
倚音というのは、本来の音の隣の音がいきなり鳴ること。楽典の本には「刺繍音の最初の和声音が省かれて、隣接音から始まる場合。2度上行、または下行して解決する」としか書いてなくて、だからどうなんだ?って感じだったんですけど、これがとてもインパクトがある音なのだそうです。あらゆる音楽の中でここぞという時に盛り上げの必殺ワザとして使われるのだとか。なるほど、そうだったのですねえ。(こういうのが知りたかったんですよ、私は)

この倚音は非和声音と呼ばれるもの。もちろん和音の中にある音を使って曲を作るのが原則ですし、そうやって曲を作ることもできるのですが、それじゃあ単純な曲しか作れない。しかもどこかゴツゴツとした面白味のないものになりがち。だから少し装飾をしたくなるのが人情というわけで、そういう時には非和声音を使うことになります。
代表的なのは次の4つ。

  経過音…音が飛んでいる場所を埋めるように入れた音。メロディを滑らかにする
  補助音…刺繍音。刺繍をするように和声音から隣の音に行ったり来たりする
  掛留音…1つ前の小節の和声音が次の小節まで残り、非和声音となったもの
  倚音…自由掛留。本来の和声音の隣の音からメロディが始まっているもの

そしてこれらの4つの非和声音の中でも、倚音は特に自由気ままな存在。「イキナリ現れて、ガーンとかます、これが非和声音の女王、倚音の正体」なのだだそうです。

この倚音を効果的に使っているのが、ビートルズの「イエスタデイ」。歌の出だしからいきなりの倚音。本来鳴ってはいけない音からいきなり入って驚かせておいて、さっと和声音に解決。さすがは天才・ポール・マッカートニーの仕事だそうな。

そして倚音を効果的に使っている曲といえば、「津軽海峡冬景色」「港町ブルース」のような演歌。演歌のコブシと倚音は結びついていることが多いのだそうです。演歌が歌えない人でも、本来あるべき音の1つ下の音から持ち上げるように歌うとコブシっぽくなるそうで、その「1つ下の音」というのがまさに倚音というわけですね。ただ、倚音はインパクトが強いだけに、あまり何度も使うと「ワサビを塗りすぎたトロ状態」(笑)になって、ピリッとした刺激が効かなくなってしまうようです。

演歌以外では、映画音楽の「ムーン・リバー」「追憶」などが挙げられていました。

第10章「クラプトンのギターが優しく泣く間に -非和声音の麻薬的常用-」

70年代のロックシーン。当時のギターソロで最も重要なワザと言われていたのがチョーキング。リズムギターでカッティングするのは野暮の野暮、ギターソロでアドリブをやってナンボ、という時代だったらしいです。(私はカッティングも好きなんだけど!) 確かに70年代の3大ギタリストであるエリック・クラプトンもジミー・ペイジもジェフ・ベックも、チョーキングがカッコよかったですよねえ。日本人だったらチャー(竹中尚人)かなあ。クィンクィーンと堪らなかったです。(70年代のロックシーン、大好きなのです♪)

チョーキングとは、普通に弦を一本左の指で押さえ、右手のピックでその弦を弾き、その後、弦を押さえたまま上へと押し上げるという技法。例えばソの音を最初弾いたとしたら、チョーキングによってソの音がソ♯やラに上がるんですね。つまり、あらかじめ出したい音の1~2音下のフレットを押さえておいて、チョーキングで出したい音にまで持ち上げる。

そしてこの音程を上げる前の音、本来出したい音の1~2度下に当たる音が、倚音というわけです。
このチョーキングを、ギター少年たちは「ギターが泣いている」と表現したのだそうで… 私もバンドをしていたことがあって、ギター少年たちとの付き合いも色々あったんですが、そこまでは知らなかったですね。そうだったのか。(でも考えてみたら聞いたことがあるような気もしてきました)
でも演歌もロックも同じように倚音で泣かせていたというのは、どういうことなんでしょうね。演歌とロックというのは実は繋がっていたのか。それとも日本人は倚音に弱いのか。それとも万国共通で倚音に弱いかな? 演歌も海外に輸出したら案外ウケるものなのかしら?

なんて思っていたら、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」も倚音の技法が高度に使われた曲なのだそうです。1つの倚音がじらしにじらされて、思い入れたっぷりにようやく解決された頃には次の倚音が鳴り出していて、それがようやく解決された頃にまた別の倚音が鳴り出していて…
そのじらしのテクニックに、聴き手はまた泣かされるというわけですね。

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