2011年11月05日

「音楽の正体」その2

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第3章「ユーミンのおこした革命(1) -導音省略のドミナント-」

曲というものが基本的に V → I で終わる以上、その V (ドミナント)が作曲家の個性を表すことになるのだそうです。どうやってドミナントへ行くのか? どんな風にドミナントを鳴らすのか?

ドミナントは作曲家の顔と言われるほど、作り手の個性が明解に出る場所なのだ。ベートーベンやブラームスのように重々しくがっしりとした曲作りをする作曲家は、ドミナントも重い。もったいをつけて鳴らされ、また鳴る時間も長く、音量も大きく、これでもかこれでもかと重量感が強調される。
また、ショパンの場合のドミナントはピアノの詩人と言われるだけあって、単なるソシレ(ハ長調の場合)がポーンと鳴るドミナントではない。たいてい何か修飾的な工夫がなされていて、そこにはやはりショパンらしい華麗さと哀感が込められているのだ。

そしてこれはポップスでも同じ。正面切ってドミナントが鳴らされるにせよ、そこに工夫が凝らされるにせよ、やっぱり作り手の個性が出るというわけですね。そしてユーミンの場合。

ユーミンの場合は、あまり本来の意味での V (ドミナント)が鳴らないのだそうです。そのほとんどが「 F オン G 」と呼ばれるもの。これはベースの音が「ソ」の音で、その上に「ファラド」の和音が乗っているという状態。
そしてこれは導音が省略されているということでもあるのですね。導音というのはドミナント和音の第3音。これは下から3番目の音という意味ではなくて、一番下の音から3度にあたる音ということ。3つ鳴らした時の真ん中の音。「ソシレ」の「シ」の音。元々和音の中の第3音というのは長調か短調かの性格付けをするのでとても重要で、省略できない音なのですが、その中でもドミナントの第3音は「導音」と呼ばれるとても大切な音なんですね。(ハ長調の場合)

「導音シが主音ドに上がる」
たったこれだけのことに含まれる単純だが深い味わいと限りない安心感・安定感。それが西洋音楽の正体そのものだと言ってもいいのである。

ユーミンが好む「 F オン G 」はベースが「ソ」で上が「ファラド」なので、導音の「シ」がない! それなのにそこから I の和音に行ってしまうのですね。これでは安定感が得られないのです。(変終止と同じ効果なのかな?)

では、実際にユーミンの曲はどうなのでしょう。
まず「 F オン G 」というのは、F と G の要素を半々に持っているのだそうです。ドミナント(妻)の G は、地味で堅実、安定感は抜群だけれど、少々野暮ったい面もある和音。それに対してサブドミナント(愛人)の F は、派手で軽くて、責任感のない晴れやかな和音。この2つをあわせ持つということは、日本古来の良妻賢母的な女性像ではなく、70年代後半辺りからの時代の気分に乗った、従来の主婦像にとどまらない軽やかな女性像を象徴するような和音だということだそうで… 実際、これがとても「透明感のある都会的な香りがする」響きなのだそうです。…なるほどねえ。ユーミンって確か70年代に出てきた人ですものね。時代に合っていたのですねえ。
そして導音がないということは、導音から主音にあがるという西洋音楽500年の歴史の重さや義務から解放されたということで、これまた大変な軽やかさがあるのだそうです。

第4章「ユーミンのおこした革命(2) -保続音のエクスタシー-」

そしてユーミンの起こしたもう1つの革命は、「卒業写真」のサビの部分で保続音を使ったこと。
保続音というのは、ベースが同じカクテルのようなものなんですね。同じウォッカベースでトマトジュースを混ぜればブラッディーマリー、オレンジジュースを混ぜればスクリュードライバー、ライムジュースとジンジャーエールを混ぜればモスコミュール…
保続音もこれと同じ構造で、ベースが同じだけれど上に乗せる和音が少しずつ違うというパターン。もしくはソプラノが同じだけど、下の和音が変化していくというパターン。有名なところでは、ディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」や「太陽にほえろ」のテーマ。モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」も。

この保続音には、「緊張の持続した流れを作る」という効果があるのだそうです。和音は変わっていって変化はあるのに、1つの音にずっとひっぱられて、この先どうなるのだろうという緊張感が生まれて、それが終わってほっと一息をつくという流れになるのだとか。
確かに「ハイウェイ・スター」のあのイントロは、ものすごい緊張感! でもほっと一息つく間もなく曲の最後まで突っ走るって感じですね、あの曲は。ほっと一息つくのは曲が終わった後かしら。(笑) そして「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」は、左がドの音を連打するところ… ってこれは本に載ってた楽譜なんですけど…(笑) オーケストラだとこういう保続音を作りやすそうですね。保続音を作るパートがどんどん入れ替わっていって、そりゃもうすごい緊張感で盛り上がる!という曲だって作れそうです。(本当かしら? 笑)

そしてユーミンのすごいところは、この保続音を曲のイントロや間奏のアクセントで使うのではなく(それだけなら、ユーミン以前にも例があった)、「歌い上げ系のバラードでサビを支えるキモ」として使ったことなのだそうです。

バラードのゆったりしたリズムの中、最初は上に広がり、次は下に広がる、あの「卒業写真」のサビ独特のフワーッと夢見心地に広がるファンタジックな奥行き感は、こんなところに原因があるのである。

私はユーミンはほとんど分からないのですが、確かに独特の個性がありますよね。今までは時代に合った歌詞なんだろうな、とか、あの独特な声のせいもあるよね、とか思っていたんですけど、こんな風に色んな新しいワザが駆使されてたとはー。
ただ、作詞作曲がユーミンでも、実際に和音に乗せてるのもユーミンなのかしら? ご主人の松任谷正隆さんの手腕もあるのかもしれないですね。なんて思ったりもしたんですけど… 「卒業写真」は荒井由美時代の曲だそうだから、やっぱりご本人だったのかな。

いずれにせよ、ユーミンのように大スターとなる人には、やっぱり何か確固としたワケ(ワザ?)があるものなのですねえ。クラシックならまだしも、ポップスやロックの世界はきちんとした勉強をした人ばかりではないはず。きちんと勉強してる人の方が少ないのかも。前々からあるワザなら聴いたり演奏したりするうちに会得することもできますけど、新たなワザを生み出すのってやっぱりすごいことですよね。きちんと勉強してない方が規則に囚われずに済みそうな気もしますが、それでも西洋音楽の長い歴史を背景に持つ規則は、やっぱりそれだけの意味があることだろうと思うし… 和音の持つイメージとかそれぞれの音の持つ意味合いを本能的にきちんと感じ取っていて、なおかつその時代の空気にも敏感だということですものね。すごいなあ。



2011年11月04日

「音楽の正体」その1

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第1章「レット・イット・ビーは終わらない -変終止のつくるクサレ縁-」

前の記事からの続きです。
この章は主要3和音と終止についての話。主要3和音というのは、楽典的に書き表せば I (トニック)と IV (サブドミナント)と V (ドミナント)のこと。ハ長調でいえば、ドミソ(C)とファラド(F)とソシレ(G)ですね。極端な話、この3つさえあれば簡単な曲が1曲書けるぐらいの重要な和音です。
この本で面白いなと思ったのは、この3和音を「夫」「妻」「愛人」にたとえていること。まず I のトニックが夫。I をがっちり支える V が妻。安定感は抜群だけれど、少々野暮ったい面もあります。そして IV のサブドミナントが愛人。V と似た働きをするけれど、V に比べると安定感には欠ける存在。でも魅力的。
男は愛人とすったもんだしつつも、最後は妻の元へと帰ってハッピーエンド… こうしてみると、1つの曲がまるでドラマのように見えてくるというわけですね。

そして曲の終わり方として王道なのは、V から I の全終止。妻から夫へのアプローチ。とても平和で心安らかな気分になれる終わり方。そうでなければ、 IV から I への変終止。愛人から男へのアプローチ。これはあまり終わった感じがしなくて、後を引く終わり方。

かつて大ヒットしたビートルズの「レット・イット・ビー」は、途中盛り上げるだけ盛り上げておいて、最後は変終止でさっと逃げているのだそうです。「1番が終わるとどうしても2番が聴きたくなり、2番が終わると3番、3番が終わるとまた最初から聴きたくなる、という仕掛け」… 変終止ってそういう風に使うんですね! クラシックの曲ならまだしも、ミリオンセラーのヒットを狙うには、全終止で完全に満足させちゃうような曲よりも、変終止で後を引かせた方が勝ちだということなんですね。面白いなあ。同じくビートルズの「イエスタデイ」とかエルトン・ジョンの「ユア・ソング」もそういった変終止の曲なんだそうです。

第2章「ブルースも終わらない -禁則進行のレジスタンス-」

この章はコード進行の話。音楽理論的には、基本的な和音進行というのは既に厳密に決められていて、それほど自由に行ったり来たりすることができるというわけではありません。たとえばこんな感じ。

  ・I は何にでも進める
  ・II は V にしか進めない
  ・IV は VI 以外何にでも進める
  ・V はI と VI にしか進めない
  ・VI は I 以外何にでも進める

これはクラシックでの決まりごとですが、ポピュラー音楽でもこの規則が大前提。動き方が決まってるところは、まるで将棋の駒のようだとありましたが、まさにそうですね。こんな風にきっちり決まってると、どの曲も同じような感じになりかねないわけです。でも天才的なヒットメーカーとなっている人たちは、そういった基本的な和音進行の曲をベースにしながらも、その中で必ずどこかに自分なりの工夫をしているのだそう。

そしてこの章の本題であるブルース。一般的なブルース進行というのはこんな感じ。

  C→C(F)→C→C→F→F→C→C→G→F→C→C(G)

規則から言えば、G(V)からは C(I)か Am(VI)にしかいけないはずなんですが、ブルースは必ず「G→F→C」で終わります。これはクラシックではまず見かけることのない、調和や安定とは程遠い進行。でもそれがブルースの性格にとても良く合っているのですね。考えてみれば、ブルースというのは元々アメリカ南部のアフリカ系アメリカ人の間から発生した音楽ですものね。黒人霊歌とか労働歌などから発展したものが、明るく満ち足りているはずがないわけで。

クラシックでは禁じられた V 度→ IV 度進行で刺激を作り、しかもそれを変終止で I 度に戻す。ブルースがやみつきになる理由はここにあるのだ。強烈な刺激と最終的な不満足感、一種の病的な哀しみをブルースが表現できるわけである。

これにはほんと「なるほどなあ」と納得です。私、ブルースギターが大好きなんですよー。でね、いわゆるブルースと分類される曲ではなくても、ものすごく惹かれる流れというのがあるんですが、それってもしかしたらブルース的なコード進行だったのかもしれないなあと思いました…。ちなみに「レット・イット・ビー」や、映画バットマンのテーマ、フィンガー5の「学園天国」にもブルース的なコード進行が含まれているのだそうです。
そしてブルースも変終止。だからライブで1つの曲が延々と演奏され続けたりするんですって。



2011年11月04日

「音楽の正体」

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「音楽の正体」という本を教えてもらったので早速図書館で借りてみました。
これは以前フジテレビで1993年10月から6ヶ月間深夜に放送された同名の番組をベースにした本とのこと。筆者の渡邊健一さんがその番組の企画と台本を担当していたのだそうです。私はその番組は観てないのですが、かなりいい番組だったようですね。その番組は今でもYou Tubeでも観られるようなんですが、まずは本を読んでみると、これがとても勉強になる本で! 例に出されてる曲はポップスやロックが多いのですが、渡邊健一さんが桐朋学園高校の音楽科作曲専攻を経て慶応大学に入るという経歴の持ち主のためか、楽典的にかなり踏み込んだ内容となっており、しかも専門外の人間にもものすごく分かりやすいです。amazonのレビューに「ミュージシャン養成学校等で教科書にも使われていた程の伝説の隠れたベストセラー」とあって納得してしまったほど。まだ全部読み終えてないのですが、読み進めるほどに発見があるので、これは少しずつ記事にしてまとめていってみたいと思います。
(ちなみにこの本は現在入手不能状態… 復刊して欲しい!)

そうか、あの曲にはこんなワザが隠されていたのかー!とか、大学でクラシックの作曲技法を学んだ人ならともかく、ポップス・ロック系の作曲をする人も実はこういうワザをちゃんと知ってたのねー!とか、基本をきちんと知ってるからこそこうやって外すワザが使えるのねー!とか。そりゃあもう色々な発見が~。

あ、でも、まとめるのは次の記事からということで、この記事ではとりあえず本の目次を書いておきます。

  第1章 レット・イット・ビーは終わらない -変終止のつくるクサレ縁-
  第2章 ブルースも終わらない -禁則進行のレジスタンス-
  第3章 ユーミンのおこした革命(1) -導音省略のドミナント-
  第4章 ユーミンのおこした革命(2) -保続音のエクスタシー-
  第5章 加山雄三に学ぶ感動の黄金率 -旋律の頂点とは何か-
  第6章 風と共に去りぬの秘密 -跳躍的旋律のインパクト-
  第7章 モンキーズの見た白昼夢ーデイドリーム・ビリーバー -ドッペルドミナントの魔法-
  第8章 赤いスイートピーはどこへ行ったのか -副5度によるシーン展開-
  第9章 津軽海峡イオン景色 -音楽の「泣き」とは何か-
  第10章 クラプトンのギターが優しく泣く間に -非和声音の麻薬的常用-
  第11章 坂本九・オサリバン・ミスチルの旅したパラレルワールド -胸キュン準固有和音の構造学-
  第12章 シカゴのブラス音が雑踏に消える時 -音画的手法とは何か-
  第13章 フランス革命なんて勝手にシンドバッド -絶対音楽とは何か-
  第14章 結婚しようよは最後に言って -黄金のカデンツ-
  第15章 プリンセスプリンセスの見つけたダイアモンド -転回形と半音階的進行-
  第16章 竹内まりやの「告白」に鼓動を聞く -内声と外声-
  第17章 パリの空の下、シャンソンは流れる -複合拍子の構造学-
  第18章 坂本龍一の中の寅さん -日本音楽の彷徨-
  第19章 ヘップバーンとユーミン -楽曲形式論-
  第20章 なぜ年の瀬には第九が聴きたくなるのか -変奏曲形式とジャズ-
  終章  セーラー服でたどる音楽史 -平均律という遺伝子-



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