2010年09月29日

属七と減七の和音

Category : 楽典覚え書, 音楽的資料 | Comments (6)  

小学校の頃に習っていたピアノの先生のところは桐朋受験の生徒さんが多かったこともあって、ソルフェージュにも熱心だったんです。通常のピアノのレッスンとは別に、和音の聴音とか、先生が弾いた旋律を聴いて書きとるのとか、初見の楽譜で歌うのとか結構やりました。あまり覚えてないんですけど、楽典的なことも少しずつ教わっていたはず。あ、私の場合は、習い始めたその日に手をじーーっと観察された揚句「小指が短いからピアニストは無理。」と言われたんですけどね。(結構強烈ですね。うちの親は「近くの良い先生」を探しただけだったようだし、私自身も何も考えてなかったのでショックは受けなかったんですが、ものすごくびっくりしたので、今でもその時のことはよく覚えてます・笑) そして引っ越しのために中学から新たに習った先生(前の先生からの紹介)にも、しばらくの間は色々していただいてたんですけど… 音大受験という雰囲気がまるでない私のせいで、いつのまにかうやむやに… 結局、楽典をきちんと勉強したことがないまま、ここまで来てしまったんですねえ。
でも、「それじゃあいかーん!」ということで、ちょっと前から家で楽典やその手の本を読み始めてます。とは言っても、読んでるだけでは頭に入らない! どうしても間隔が開いてしまうので、前読んだところをすっかり忘れてしまーう。(年のせいだな)
なので、これからはここにメモしていこうと思います♪

私が今使っているのは、菊池有恒著「新版 楽典 音楽家を志す人のための」と島岡譲著「和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで」の2冊。どちらもなかなか分かりやすい本です。それと辞典は「新音楽辞典」。あとはイタリア語やフランス語、ドイツ語の辞典も家に転がってるので、必要に応じて使ってみたりします。楽語としてよりも、普通の言葉として調べる方が好きなので♪ (イメージを掴みやすいので、頭にも入りやすいんです)

  

今回は、今ハノンでやっている属七和音と減七和音について。まずは辞典を引いてみました。

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属七の和音…dominant seventh chord(英)
属音上の七の和音。属三和音上に短3度を加えたもの。これと同形の和音は、音階固有和音としてはこれひとつしかない。そして同名の長・短調には共通する。その自然的解決といわれるのは主三和音に進むものである。

減七の和音…chord of the diminished seventh(英)
短調の第7度に立つ七の和音として普通に存在する和音だが、短3度の集積で、エンハーモニック転換によると、展開和音としての意義を生じない。したがって鍵盤上に3個の減七しか存在しない。

*****

 
んー、なんだかよく分かりません。(笑)
属七の方は、結局のところC7(シーセブン)とかG7(ジーセブン)のことでしょ? みたいな捉え方をしてたんですけど(これはクラシックではないけど)、それもちょっと違うみたいですね。長調も短調も共通? それに、減七なんて日本語の説明よりも英語表記の方が分かるような気がするし。(辞書には英語表記の他に独・伊・仏表記もあります) とりあえず、一番分からない「エンハーモニック」について調べてみると、これは「シのシャープ」と「ド」のような、平均律上の同音異名のことなんですね。そしてエンハーモニック転換(enharmonic charge・英)は、転調のもっとも重要な手段の1つとのこと。なるほど。…でも「エンハーモニック転換によると、展開和音としての意義を生じない」って一体ナニ?

よく分からないので、もっと基本に戻ってみることにしました。

*****

 
まずは音階構成音の名称から。
主音…tonic(英)(第I音)
   音階の基礎になる最も重要な音。(C dur の時の C)
属音…dominant(英)(第V音)
   主音の完全5度上にある音。主音を確定させ、調性を支配する重要な音。(C dur の時の G)
下属音…subdominant(英)(第IV音)
    主音の完全5度下にあり、属音と対照的な位置にある音。(C dur の時の F)
    主音と属音の機能を補助し、下行導音の機能も持つ。
導音…Leading tone(英)(第VII音)
   短2度上行して主音に進もうとする性質をもつ音。(C dur の時の H)
   属和音や属七の構成音である場合は、その作用が一層強くなる。

あとは中音(第III音)、下中音(第VI音)、上主音(第II音)があります。

そして和音。Chord(英)
和音とは…高さの異なる2つ以上の音が同時に響いた時に合成される音。
     重音、三和音、四和音、五和音など。

三和音…
 ある音(根音)の上に2つの音(第3音・第5音)を3度の間隔で重ねたもの。
 根音と第5音との間が5度となるため、五の和音とも呼ばれる。
 音階の各音は、それぞれに根音となってその上に三和音を組み立てることができる。
 音階の第1音(主音)を根音にする和音はI度和音、第2音以降は順にII和音~VII和音と呼ばれる。

 協和音…長三和音(長3度+短3度 CEG) 明るい感じ
     短三和音(短3度+長3度 CEsG) 暗い感じ
 不協和音…増三和音(長3度+長3度 CEGis) 膨張する感じ
      減三和音(短3度+短3度 CEsGes) 陰鬱な感じ

 主要三和音…I度和音、IV和音(下属和音)、V度和音(属和音)
 副三和音…II度和音、III度和音、VI度和音、VII度和音。

四和音(七の和音)…
 三和音の原形にもう1つ3度の間隔の音(第7音)を重ねたもの。
 根音と第7音との間が7度となるため、七の和音とも呼ばれる。
 属音上に形成された四和音は「属七の和音」と呼ばれる。
 属七の和音以外の四和音は「副七の和音」。
 副七の和音のうち「減三和音+短3度」の和音を「減七の和音」という。

 属七の和音…長・短調共に「長三和音+短3度」となる。
       調性音楽において重要な役割を果たす。
       属七の和音から主和音(V7→I)への進行を自然的解決という。       
       属七の和音以外の他の四和音を副七の和音という。
 減七の和音…副七の和音の中でも、特に短3度の積み重ねの和音を減七の和音という。
       何度回転させても、エンハーモニック転換によって再び減七の和音の原形となる。
       そのためエンハーモニック転調に利用される。
       「C+Es+Ges+A」「D+F+Gis+H」「E+G+Ais+Cis」の3種類。

五和音…
 七の和音の上にもう1つ3度(第9音)を重ねたもの。(九の和音)
 属音上に形成された五和音を属九の和音という。
 属九の和音は、長調の場合は長9度、短調の場合は短9度となる。
 4声体では第5音が省略される。

*****

 
短三度というのは半音3つ分だから、それが4つで完全八度(オクターブ)になっちゃう。だから結局3つしか存在できないというわけですね。ハノンの42番で7つのアルペジオ練習が載ってるけど、要するにこの3種類の使いまわし。ドビュッシーの全音音階が2通りしかないのと同じようなことですね。なるほど。

なんとなく分かったような気が~というレベルですが、とりあえず今回はこれでオシマイです。



2010年09月26日

最近はハノン

Category : 音楽的徒然, 音楽的資料 | Comments (4)  

ちょっと前にチェルニーがどうのこうの言ってたんですけど(ココとかココとかココ)、最近はちょっとお休み中。実は今の先生に習い始めた頃から「ハノンを全部通してM.M.♩=120で弾く練習をするといいわよ」と言われつつ放置してたんですが(おぃ)、ようやく重い腰を上げて! 7月に入った辺りから、本腰を入れてハノンを練習し始めてます。
でもでも、先生は簡単に120と言ってくれるけど、私の指はそんなに簡単には動いてくれなくて。右手はいいとして、問題は左手。左手ってほんとダメダメですねえ。特に4と5の指なんてほとんど仮死状態なんですもん。しかもユニゾンで弾いてると、どうしても右手が左手のカバーをしてしまうんですね。しっかり弾いたという充実感の割に、実は左手にとっては全然練習になってないというワナ。ハノンを始めてしばらくして、左手が実は全然弾けてないのに気付いた時は愕然としました…。(もちろんユニゾンだからこそ効果的という部分もあると思いますが~)

最近、先生にも第3部を中心にレッスンで見て頂くことになって、第3部が終わったら次はスケールとアルペジオかなという感じなんですが、今のところ家で頑張っているのは1~31番の準備運動系。ピアノを弾く上で「綺麗な音が出せるようになりたい」「歌えるようになりたい」というのももちろんあるんですが、そちらは日々のレッスンの課題で頑張っているので(一応)、こちらは純粋に「思うように動いてくれる指を作る」ためです。だって私が弾いてみたいと思う曲は、大抵超高速だったりバリバリ技巧派なんですもん。
日によって練習に取れる時間は違うので、毎日必ずできるというわけではないんですが、基本的にその日の練習の最初に1つ番号を選んでリズム練習とスタッカート練習をしてから、1番から31番までざっと通してます。30番までは左手だけの片手練習。31番だけ両手でやって終了。通すだけだったら、全部弾いても20分ぐらい。でも音の粒が揃ってない部分を取り出してリズム練習をしたりするので、大抵もうちょっと時間がかかります。(時間に余裕がある日の話ね)
で、びっくりしたんですが、リズム練習って効きますね! こんなに即効性があるものだとは思ってなかったです。音の粒も面白いように揃ってくれるし(次の日になったらまたダメになってたりするけど)、一段速く弾けるようになるし。時間がほとんど取れない時は、苦手な番号をリズム練習するだけでもいいぐらい。それだけでもやっておくと、1日2日のブランクを全然感じません。
そんなこんなで、今は基本的に毎日ハノンからスタート。7月にやり始めた頃はすごーくゆっくりだったんですが、この3ヶ月でとうとう左手だけで120で弾けるようになりましたよ! 為せば成る! …結局のところ、弾けるようになったのが嬉しくて、この記事を書いてるというわけなんですが。実際には、これでようやくスタートラインなんですけどね。(がはは)

改めてやってみて思ったんですけど、ハノンってやっぱりいいですねー!(もちろん、ただ機械的にガシガシ弾くだけでは逆効果になりかねないと思うけど)
なんでいきなりハノンを始めたかといえば、川上昌裕さんの「ちょっとピアノ本気でピアノ」という本を読んだから。(影響されやすい私) この本に、大学時代の一時期毎日ハノンを全部通して弾いていたら驚くほど上手くなった、と書かれていたんです。私にはまだまだ全部なんて弾き通せないんですが(3時間ぐらいかかりそう)、自分が実際にハノンを改めて練習するようになってみて、それは本当に十分あり得ることだと思いました。実際のところ、練習曲系よりもまずハノンじゃないですかね? 試しにハノンをやった後にツェルニーを弾いてみると、指の動きが全然違うのが自分でもよく分かります。
ツェルニーは、ハノンが一段落ついたら復活させるつもり。今はハノンが面白いので、しばらくこちらで頑張ります。ああ、子供の頃にこのハノンの面白さと効用に気付いていたらなあ。でも今だからこそ、この面白さが分かるんでしょうね。
今年もあと2ヶ月、難曲にも負けない指をハノンで鍛えよう!

そして、今レッスンでも減7と属7のアルペジオをやってるし、時間がある時は家で普通のアルペジオもさらってるので、その延長でショパンのエチュードのOp.10-1も練習し始めました。ドビュッシーが終わって今度ショパンのエチュードに戻った時は「木枯らし」をやるという話になってて、実際譜読みもしたんですが、これはまだ私には早すぎるということがよーーーく分かったので! やっぱり次はOp.10-1をやることにしようかと。「木枯らし」の話が出る前は、先生もOp.10-1かOp25-1かって仰ってましたしね。
今は身体に覚えこませようと、ゆっくりアルペジオさらってる段階。ミスタッチしないように気をつけつつ、1つ1つ脱力するようにも気をつけつつ、レッスンが始まったらきっと「もっと和声を感じて」と絶対言われると思うので(笑)、時々全部和音として押さえてみつつ。(ペンネさんのところにあった「コード化練習」ですね!)
ドビュッシーはまだ当分終わらないでしょうし… 今レッスン中の「子供の領分」はもちろんなんですが、中学の頃にやった2つのアラベスクが全然綺麗に弾けないことに気付いて、これも先生に一度見ていただこうかなあなんて考え中なので… それに、いい機会なので「レントより遅く」もやりたいんですよね。だから、まだまだたっぷり時間があるはず。のんびり練習中です。



2010年09月07日

「ポポイ」

Category : 音楽的資料 | Comments (2)  

amazon:ポポイ

そういえばこの作品の中でドビュッシーが流れていたなあ… と、倉橋由美子さんの「ポポイ」を久々に手に取りました。これは倉橋由美子さんの桂子さんシリーズのうちの1冊。近未来(?)が舞台で、桂子さんの血の繋がらない孫の舞が主人公。舞の祖父のところに乱入したテロリストの美少年が切腹し、介錯された首だけが密かに最新医療で生かされ続けて、舞の元に持ち込まれるという話です。元々はNHK-FMのラジオドラマのために書かれたという作品。

美少年の生首に「ポポイ」という名前をつけて世話する舞。…切腹といえば三島由紀夫だし、この作品の中でも引き合いに出されてるんですけど、イメージ的には、やっぱり「サロメ」でしょうね。(その「サロメ」も引き合いに出されてますが) 特に舞がその首を弄んでいるところ。気まぐれにキスしたり、わざとポポイの目なんてまるで気にしてないようなそぶりで、目の前で服を脱いでみたりするところ。(そのエロティシズムは決して大人の女性のものではなく、少女の硬さを感じさせるものなんだけど) もちろん普通の世話もしてます。でも、どちらかといえば遊び感覚かな。髪形を変えてみたり、髭をそったり、歯磨きをしたり。なんと男性用パックまで! あとは、話しかけたり、本を読んだり、音楽を流したり… 聴かせる音楽はバッハから現代のジャズやフュージョンまで幅広いんですが、ポポイが気に入るのがドビュッシーの音楽。

ポポイは夜寝る前にドビュッシーのピアノ曲を聴く。いろいろ聴かせた中ではドビュッシーを一番好むようだから、若いフランス人のピアニストが弾いている「前奏曲集」や「ベルガマスク組曲」や「子供の領分」などから、肌ざわりの柔らかな音の織物のようなのを選んで夜の空間に広げてやる。するとポポイはその音の織物にくるまって気持ちよく眠れるようだ。

あれっ、「子供の領分」も出てきてましたっけ! すっかり忘れてました。へええ「肌ざわりの柔らかな音の織物」かあ… そんなところからも、演奏のヒントを少し掴めるような気がします。あと、若いフランス人のピアニストって誰のイメージだったのかな。倉橋由美子さんがこの作品を書いた頃だと… パスカル・ロジェとかミシェル・ベロフ辺りなのかな? 同世代だと、ジャン=フィリップ・コラールというピアニストもいるようですね。残念ながら私は聴いたことがないのですが。

音楽は少しずつ小さくなりながら朝まで続くようにしてある。すると明け方に時ならぬ花火の夢を見たりすることがある。そんな時は色とりどりの音の火花が部屋の中にはじけていたことにあとで気付く。「前奏曲集第二巻」の「花火」を聴いていたのだ。また、少し粘液質の夢から朝の光の中に浮かび上がってみると、外は温かいシャワーのような雨だったりして、たちまち夢の名残が洗い流されることもある。嬉しさの余り伸びをしたら、偶然、部屋を満たしていたのが「古代のエピグラフ」の中の「朝の雨に感謝するためのエピグラフ」だったことに気がついた。

そして早速「花火」と「朝の雨に感謝するためのエピグラフ」を聴いてみる私ってば。(笑)
「花火」は大胆で華やかで、確かに色とりどりの火花が飛びかいそうな曲。これは前奏曲第二巻を締めくくるための花火、にはとどまらないかしら。最後の方でフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が聞こえてくるそうなので。(ここなんだろうなってところはあるんですが、今の時点ではイマイチ分かってません…)
「朝の雨に感謝するためのエピグラフ」は、ドビュッシーが友人である詩人・ピエール・ルイスが、古代ギリシャを舞台に同性愛を歌った「ビリティスの歌」を発表する際の付随音楽として作曲された曲。元々はフルートとチェレスタとハープのための曲だったんですって。でもその企画は結局実現しないまま、ピアノ連弾版として書き直されて、今の形になったのだそう。幻想的な美しい曲。いずれにせよ、どちらの曲も相当難しそうです。

この本に限らず、倉橋由美子さんの作品には文学や美術、音楽、その他様々な芸術がよく顔をのぞかせて、倉橋さんご本人の芸術に対する造詣の深さを感じさせるんですけど、他に特に印象に残っているのは、同じく桂子さんシリーズの「城の中の城」のこのクダリ。

「クーラウ、クレメンティ、ハイドン、スカルラッティのソナタが合わせて八曲位、それにモーツァルトのソナタが二つ弾けます。あとはバッハのアンナ・マグダレーナと、インヴェンションが三曲ぐらい、平均律は第一巻のプレリュードの一番と二番がやっとで、フーガの方はまだ駄目なの」

これを言ってるのは桂子さんの娘の智子さんです。どのぐらい弾けるのかと聞かれた答がコレ。まだ6歳だというのに凄すぎる!(しかも自宅に中古ながらもスタインウェイがあるなんて、なんて羨ましい環境なんだ!) でもこの作品が書かれた頃は、女の子ならほとんどみんな!ピアノを習ってるって時代だったから、こんな子もいたのかもしれませんねえ。(しかもあの桂子さんの子供なんだものね)



2010年08月28日

佐渡裕さんの本

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「僕はいかにして指揮者になったのか」は、先日「佐渡裕ヤング・ピープルズ・コンサートVol.12」に行ったことを記事にした時に、yoshimiさんに教えて頂いた本。この本では佐渡裕さんの半生、京都に生まれ育ち、いつしかクラシックが大好きになり、京都市立芸大のフルート科へ。そしてどんな経緯で指揮者への道を歩むようになったのか、さらには小澤征爾さんやレナード・バーンスタインとの出会いは… といったことが語られていきます。いやあ、面白かったです。先日のコンサートでもすごくエネルギッシュでカッコ良くてびっくりだったんだけど、これを読んだらますますファンになってしまう~~。

全編から佐渡裕さんが音楽が本当に大好きなことがびしびし伝わってくるし、色々と印象的なエピソードがあったんですが、一番印象に残ったのはやっぱりブザンソンでのコンクールでしょうか。小澤征爾さんも優勝した、フランスのブザンソンの指揮者コンクール。小澤征爾さんの「ボクの音楽武者修行」でのブザンソンの場面もとても面白かったんですよねえ。「僕はいかにして指揮者になったのか」でも、やっぱり面白かったです。コンクールの課題そのものの話も面白かったし、コンクールに参加することによって徐々に変化していく佐渡裕さんの気持ちの部分も面白かった。課題の間違い探しでは、小澤征爾さんは正攻法で全問正解だったと思いますが、佐渡裕さんは間違いを指摘しながらもオケを味方につけてしまうところがスゴイ。
あとは、大学2年の時に出会った「朽木さん」の話。音楽関係でも何でもない、ただの普通のおじさんに見える朽木さんに、佐渡さんは初対面で「君は指揮者か?」と聞かれたというんですね。その頃の佐渡さんはフルート科の学生。なぜ指揮者かという言葉が出たのかといえば、それは佐渡さんの後ろにいる「指導霊」が指揮者姿だったから。指導霊とは、努力したら努力しただけ、その人間に示唆を与えようとしてくれる存在で、この指導霊に恵まれていたら努力しただけ成長し、向上すればレベルの高い霊に変わっていくのだそうです。(反対に怠けている人間は無視されるのだそう) 私自身はそういう方面を全面的に信じる方ではないんですけど… ほっほう、そうか、頑張れば頑張るほどいずれは報われるのか、とそっちの思考でなんだか前向き度が増してみたり。(笑)
登場するほかの指揮者としては、レナード・バーンスタイン、世界のオザワ、そして岩城宏之さん。彼らと出会い学ぶことによって、佐渡裕さんがどんどん大きくなっていくのが分かります。(もちろん人間的成長のきっかけとなるのは指揮者との交流だけではないんだけど) 指揮者の才能というのは私にはよく分からない部分ですが、それでも佐渡裕さんの人間的な魅力は十分分かるし、巡ってきたチャンスを確実に自分の方に引き寄せる力も半端じゃないですね。
地の文章は標準語なんですけど、佐渡裕さんの言葉は京都弁。これがまたいい味を出してるんですよー。バーンスタインとの会話まで京都弁なんですもん! 「ライフ・キャン・ビ・ビューティフルや!」…いいなあ。
とってもパワーをもらえる本なので、この本、欲しい!と思ったんですけど、今は入手不可状態。中古で探すか… と思っていたら、新潮文庫から復刊したところみたい。(最初見た時は9月に刊行予定になってたんだけど、もう買えるようです) なんてナイスタイミング!

それにしても、佐渡裕さんが指揮科出身じゃないのにいきなり世界的な指揮者の弟子になったことこととか、指揮者コンクールの時の話とか… 特にオーボエとクラリネットが入れ替わるエピソード。「ティルオイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」が課題曲。そしてデビューはベートーヴェンの交響曲第7番。プライヴェートジェットで移動するバーンスタインの後を夜行列車などで追いかける辺りも? 「のだめ」の千秋に重なる部分が結構あるような。(他の本を読んでいてもそう思ったことは何度かあったので、作者の二ノ宮知子さんは相当勉強してらっしゃるんだろうと思いますが)

指揮者の書いた本といえば、さっきちらっと触れた小澤征爾さんの「ボクの音楽武者修行」も面白かったし… 日記や手紙が中心なので淡々と書かれているんですが、着々と出していく結果がものすごくてびっくりなんですよね。才能に溢れてる人って素晴らしいです。あと岩城宏之さんの本も面白くて「指揮のおけいこ」「オーケストラの職人たち」「音の影」「フィルハーモニーの風景」「岩城音楽教室」…と何冊も読みました。指揮者本、面白いです。時には100人以上になる個性的な集団を棒1本でまとめ上げる人たちだけあって、やっぱりすごく頭がいいし、人間的にも魅力的なんですね。こういうのを読んでると、もう少しオーケストラにも目を向けたいなという気になります。(今はどうしてもピアノ独奏が興味の中心だから)

「感じて動く」の方は、スポーツドクターの辻秀一さんという方が聞き手となって佐渡裕さんの話が引き出されていく本。2人とも1961年生まれ、辻秀一さんのお母様の実家が京都の太秦で、これは佐渡裕さんの生まれ育った土地。2人とも自分でプレイする人間ではなく、チームの能力を最大限に引き出して観客に感動を創出するのが仕事。それ以外にも様々な共通項があり、さらに初めて出会った時に話したことに対する共感が大きくて、本を書くというところに至ったのだそう。
こちらは佐渡裕さんの音楽の話ももちろん色々とあるし、興味深い話もあるのだけど… まず辻秀一さんが話を振って、それに対して佐渡裕さんの話があり、そして辻秀一さんの解説のような文章があるという構成。辻秀一さんはスポーツドクターという肩書ではあるけど、もっとビジネス寄りの方なんでしょうね。音楽書というよりもむしろビジネス書のような印象でした。ビジネスマンではない私としては(同じ自己啓発するにしても、方向性が違うんだもの)、音楽の部分だけ読みたかったな。「僕はいかにして指揮者になったか」の柔らかい京都弁がなくなってしまっていたのも残念でした。



2010年08月17日

ピアノ黄金時代

Category : 音楽的資料 | Comments (8)  

ちょっと前に入手していた「アート・オブ・ピアノ」というDVD、ようやく観られました。
これは「20世紀の偉大なピアニストたち」という副題で、総勢18名のピアニストを、実際に演奏している映像や本人へのインタビュー、音楽関係者たちのコメント、20世紀のピアノ音楽を俯瞰するナレーションによって紹介していくというもの。その18名とは、パデレフスキ、ホフマン、ラフマニノフ、モイセイヴィチ、ホロヴィッツ、シフラ、ヘス、ルービンシュタイン、プランテ、コルトー、バックハウス、E・フィッシャー、ギレリス、リヒテル、ミケランジェリ、グールド、アラウ、A・フィッシャー。

なんでケンプが入ってないのー!という文句はあるんですが(笑)、すんごい貴重な映像がてんこ盛り。(ラフマニノフだけは写真と音源のみですが) 特にパデレフスキの映像が残っていたのには驚きましたよー。…と思ったら、これは「月光ソナタ」というハリウッド映画の一場面だったんですね。このDVDに収められているのは、リストの「ハンガリー狂詩曲第2番」を弾いて社交界の紳士淑女を脳殺するパデレフスキ。パデレフスキ神話というのは、私には今一つ分からないんですが… 他のピアニストたちは手の動きからしてすごく綺麗だなと思うんですけど、パデレフスキの演奏はあまり美しいとは思えないですしね。ハンガリー狂詩曲の2番は、実は私も高校生の頃にやったことがあるんですが(玉砕しました)、最初の部分を手をグーの形にして弾くっていうのはどうなんだろう?(しかも「波打つ赤毛のハンサム」と言われても)

モイセイヴィチとラフマニノフのエピソードも印象に残るものだし、ホロヴィッツのオクターブ奏法もすごかったし(それ以外の手の動きも本当に美しくて、ヴァーシャリが競走馬の筋肉の動きに擬えるのも納得)、すっかり年老いてしまったコルトーが限りなく澄んだまなざしで語りつつ弾くシューマンの「詩人のお話」は、本当に印象的。また一段深く曲を理解できるような気がします。あとギレリスが第二次世界大戦中のロシアの前線で弾くラフマニノフの前奏曲第五番も、また全然違う意味で強烈。野外にどーんと置かれたグランドピアノを取り囲むのは兵士たち。戦闘機に乗ったまま聴いてる兵士もいるし、演奏中に飛来した戦闘機をギレリスが見上げる場面も。この時、音楽は彼らに「なぜ戦うのか」思い出させるために存在してるんですよー!
グレン・グールドの弾くバッハのクラヴィーア協奏曲第一番のバックには、バーンスタイン指揮のニューヨーク・フィルハーモニックだし… アラウのインタビューも良かった。「体はつねにリラックスさせます。肉体は魂の奥深くとつながっています。とても大事なことです。関節がこわばっているとその流れが妨げられます。感情や体の流れは音楽が命じるものです。体がこわばっていたら鍵盤にまで伝わりません。」と語るアラウ。要するに脱力のことでもあるんだけど… それだけではないですよね。

でも演奏を観ていて一番強烈だったのは、ジョルジュ・シフラの弾くリストの「半音階的大ギャロップ」。もう、すっごいですねえ! 手の動きが捉えきれないぐらい速くてびっくり。(残像が…!) シフラがリストの再来と言われていたというのもよく分かります。リストもこんな演奏をして観客を熱狂させたんでしょうね。DVDを観てるだけの私ですら、もうドキドキしちゃいましたもん。そういえば、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」はドライブ中の事故を招きやすい危険な曲だと聞いたことがありますが(60BPMを超えるテンポの楽曲を聴くと心拍数と血圧が上がるせいらしい)、シフラの「半音階的大ギャロップ」もそれに通じるものがあるかも、なんて思ってみたり。

そしてそれら18名のピアニストたちについてコメントするのは、現役のピアニストや指揮者、興行主やレコードプロデューサーたち。ピアニストとしては、アンデルジェフスキ、バレンボイム、グラフマン、キーシン、コチシュ、コヴァセヴィチ、シャーンドル、ヴァーシャリ。コメントで演奏が中断されることになるのですが、こちらもとても楽しめました。色々と印象に残るコメントがありましたしね。たとえばアンデルジェフスキの語る、ホフマンとピアノの「まれにみる幸福な関係」とか…(ピアノと格闘してるイメージなのはリヒテル!←全く個人的なイメージです)「ホフマンにとってたやすく弾けたことが悲劇です」「しがみつくものがなくて自滅したのです」「才能がありすぎると危険です」という言葉。そしてシフラの演奏に関連して、失敗の可能性を減らすために日々練習しているけれど、安全な演奏なんて退屈だし、危険に惹かれると語るアンデルジェフスキ。ううむ…。(まあ、一般のピアノ練習者とは全く次元が違う言葉なんですが)

今活躍してるピアニストたちの演奏にも素晴らしいものが沢山あるのだけど、やっぱりこの時代のピアニストたちって特別の存在かも。本当に輝いていたと思いますね。そしてこのDVD、演奏してる手が映っている映像が多いのもGoodです。彼らの手の形や弾き方をじっくり観れば、得られるものが多そう。
今までDVDといえば映画ぐらいしか観たことなかったんですけど、こういうのもいいものですねえ。色々観てみたくなっちゃいました。(You Tubeでもある程度観られると思いますが)



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